今年も、またあの季節がやってきた。

 クリスマス――――イエス=キリストの生誕を祝う祝祭。

 もっとも多宗教国、日本においては宗教的観点からこのクリスマスを祝う人間はごく一握りで

 もっぱら多くの日本人はそのお祭り的な側面からクリスマスを迎えるのである。

 でも、僕――――碇シンジにとってはクリスマスとは大きな意味を持ちえることはない。

 町を行く人々はみな幸福そうな顔をしている、それはその人を待ってくれている人が居るから

 でも..............僕は違う。

 僕は今日もまた誰も待つ人間がいない家に向かうべく帰り道を急いでいた。

 

 クリスマスという日が近づくたびに僕は一人である事を強く痛感させられる。

 僕は十年前から1人で生きたし、一人で居る事には慣れているつもりだった。

 でも、僕はこの季節が来るたびに言い様のない寂しさに襲われるのだ。

 1人で生きることを選択した僕が何故.........?

 その理由は何なのかはいまだに僕自身も分かってはいない。

 

 でも......1つだけ確かなことがある。

 

 僕の心は十年前に何かを置き忘れてしまったのだ。

 とても大切な何かを.................................

 


Hallelujah in the snow


 

 十年前、僕は「EVA」呼ばれる巨人に乗り込み「使徒」と呼ばれていた謎の生命体と戦っていた。

 でも、僕たちの最後の敵は使徒ではなかった。

 僕が必死に使徒から守ってきた人間だったのだ。

 僕は自分が今まで積み上げていたものが一気に崩れていくのを感じた。

 それに追い討ちをかけるかのように大切な人々の死........。

 

 そして............

 

 

 

 「気持ち悪い...........」

 

 

 

 僕の心をもっとも打ちのめしたのは、彼女からの拒絶だった。

 

 惣流=アスカ=ラングレー..............

 僕とは違って太陽にまぶしかった少女。

 だからなのかもしれない.............

 僕にない物をもっていた彼女に惹かれていったのは..............

 でも、その彼女にも拒絶をされて僕は全てのものを失たのだ。

 あの後アスカはしばらく病院に入院した後、そのままドイツへと帰っていってしまった。

 結局僕が彼女を見たのはあの時が最後だった。

 

 

 戦後は生き残ったメンバーがNERVを再結成して、その後の処理にあたった。

 僕には僕で「殉職」した父さんの遺産やらそれまでの退職金が入ってきて一気に膨大な額のお金を手にする事となる。

 天涯孤独の身になった僕は冬月さんから養子にならないかといわれたけど、それを断って一人で生活をすることを選んだ。

 幸い前述したお金があったから生活には困らなかったし、元々1人で生きてきたようなものだから、まあ、元のさやに収まったという感じ。

 

 

 

 

 

 そして......それから十年..........

 僕は大学を卒業してNERVの研究員としての生活を送っている。

 まあ、毎日それなりに充実しているし、ここには昔からの顔見知りもたくさんいるから今の生活に不満はない。

 それに、今でも僕はあのマンション―――――コンフォート17に住んでいる。

 始めはNERVの職員寮という考えもあったけど、結局それでは周りの人たちに頼ってしまう事になってしまうし

 それに、あのマンションには思いでもたくさんあるから..............

 全部が全部、いい思いでではないけどもその一つ一つが大切なものである事には変わらない。

 偉そうなことをいっているけど過去と決別できないだけなのかもしれない。

 いまだに、アスカやミサトさんがその場所にいるような錯覚を受けるような事がある。

 結局僕は甘えている............。

 

 

 そんなある日のことだった。

 僕はいつものように職場に向かう。

 ちなみに僕の肩書きは「生命科学研究部主任」。昔のリツコさんが担当していたポストに相当する。

 なんだか物々しい名前だけど要するに「科学的な部分を一手に担当している部署」といえば分かると思う。

 昔は僕はリツコさんが苦手だったのに、その僕がリツコさんと同じことをしている。

 なんだかすこし皮肉っぽいような気もする。

 

 「あっ、主任!!おはようございます。」

 部屋に入るなり僕に話し掛けてくる声―――――山科カスミ、僕の部署の部下の1人である。

 「うん、おはよう。んっ........」

 僕はその時、部屋にすみにおかれたオブジェクトに気が付いた。

 モミの木を模した人口樹に色とりどりの飾りと電球が付けられている。

 「そうか.......もう、来週だもんな。」

 僕はそのオブジェクトを見て、またこの季節がきた事を思い出した。

 だけど、僕にとっては平日の日と何ら変わりのない日である。

 今年のクリスマスもだれかと過ごすとかそんな予定は今のところたっていない。

 「あのー、主任は今、お暇ですか?」

 クリスマスツリーを見ていた僕に山科さんがたずねた。

 「まあ、今日はそんなに仕事も残っていないしね。午前中は暇になるけど..........」

 「よかった、実は今日、以前お話していた客員の研究員の方がいらっしゃる日なんですよ。

 それで、そろそろ空港に着くはずなんですけど、迎えにいってきていただけるとありがたいんですが。」

 客員の研究員?そういえば、ドイツから来るとか前に話を聞いていたな、今日来るのか........

 「うん、いいよ。迎えにいってくるよ。場所は第3新東京国際空港でいいんだよね。」

 僕はそう言うと再びコートをきて車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――第3新東京国際空港――――――

 サードインパクト後に建設された空港で、アジアにおける交通の要所である大空港である。

 

 「さて、ドイツからの客員研究員ってどういう人なんだろ?」

 僕は空港のロビーで缶コーヒーを片手に「客人」を待っていた。

 「なんだかNERVドイツ支部の相当なやり手だってことは聞いたけど、う〜ん

 怖そうな人じゃないといいんだけどな〜」

 サードインパクトの後、日本には四季が戻ってきており、この季節になるとさすがに肌寒くなる

 最初の頃は初めて体験する「寒さ」というものに驚きはしたが、人間の体というものは不思議なもので

 時が経つにつれて徐々にその寒さに慣れていった。

 話は戻るけど、その寒い日本を飛び出して暖かい海外に向かう人で空港はごった返していた。

 「おかしいな、約束の時間はとっくに過ぎているはずなのにまだ来ないのかな?」

 そう言って僕は自分の腕時計に目を落とした時だった。

 

 

 「シンジ.............?」

 

 

 

 背後で僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきたのは...........

 

 

 

 振り返ると赤いスーツに赤みがかかった金髪の女性がそこに立っていた。

 そう、見間違えようがない。

 変わっているのは、十年でその美しさにさらに磨きがかかった事くらいだろう。

 どこかに、まだ少女の面影を残している女性...........

 

 

 「アスカ...............」

 

 

 僕はそういう風に言葉にするのが精一杯であった。

 

 

 

 

 

 車に乗っている間はしばらく僕たちは無言であった。

 アスカは助手席の窓ガラスに顔を向けていて、僕のほうに振り向かないでいる。

 無理もないだろう、僕はアスカに消えない傷を作ってしまったのだから。

 彼女が僕に出会わなければ、少なくとも彼女の顔から笑顔が消える事なかったはずだから。

 とりあえず、この間が耐え切れず、最初に話を切り出したのは僕のほうだった。

 「アッ、アスカがドイツからの客員研究員だとは思ってもみなかったよ。」

 「......アタシもアンタが迎えに来るとは思っても見なかったわ...........」

 すかさず返されて、再び気まずい間が生じる。

 「と、とりあえず、日本にはどれくらい居るの?」 

 「今日から1週間よ」

 「1週間..........ってことは.........」

 そう言いかけて言葉が止まる。一週間後といえば、ちょうどクリスマスの日。

 その日にアスカはドイツに帰ってしまうのか..........。

 (何考えてんだよ.....これじゃ、まるでアスカと一緒にクリスマスを過ごしたいみたいじゃないか)

 事実、そうなのかもしれない。しかし今の僕にはアスカを日本にとどまらせる権利はないし。

 ましてや、クリスマスに一緒に過ごそうなどと誘う資格はあるはずもない。

 「なによ、何かいいたいことはあるわけ?」

 自問自答して1人の世界に入っていた僕をアスカの声が引き戻した。

 「いや、なんでもないよ.......」

 僕はそう答えるがなおもアスカが僕の事を見つめてくる。

 「なんか、僕の顔についてるの?」

 「アンタも変わったわね。昔だったら、私に睨まれたらすぐに「ゴメン」とか言っていたのに.....」

 「十年だよ、誰だって嫌でも変わるんだよ。」

 「十年か.............」

 アスカはそこで1つ溜息をついた。

 「でも..........アタシはアンタがした事を忘れてはいないわよ。」

 ふいに呟いたアスカの一言が僕の心に突き刺ささる。

 僕は二人の間に見えない壁があることをこの時知った。

 そう、それはあたかも昔アスカが言っていた「ジェリコの壁」であるように..........

 

 

 後編に続く


ういっす、G−MAXです。え−、更新が大幅に遅れてしまいまして、申し訳ございません。

とりあえず、ようやく新作が出来ました。今回は1話完結にするつもりだったのに、思った以上に量が

多くなりまして、前後編分けてしまいました。自分が「続く」とかにしてしまうと、続きがなかなか出来ない現状なんですが

なんとか今回の奴はクリスマス当日には後編をアップしたいと思って気合をいれてガンバっています。

クリスマス当日に後編がアップされなったらゴメンなさい(汗)

さて、話の本筋ですが、今回は微妙にシリアスな展開から話しを始めました。

自分としてはハッピーエンドが好きなので、ここからそういう展開に持っていけるように努力いたします。

とまあ、こんな感じで後書きとさせていただきます。(今度はアスカ氏と対談したいのですが、いかんせんスケジュールが

いろいろな、LASサイトに出演なされていて、とても多忙なんですよ。あの方は)

では、後編の後書きでまた会いましょう。


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