窓のほうを見るとドンヨリと曇った空から雨が降り始めていた。

 「ん、?雨か....................」

 聞いていたS−DATのイヤホーンを外してベランダから外を眺めた.....

 僕は雨が降るたびに物思いに耽って思い出す事があるのだ

 雨が降ると一般的にはいいことはあまりない

 洗濯物は乾かないし、わざわざ傘を差さなければいけない

 それにいろいろと野外での活動にも制限が出てきてしまう......

 でも、僕は雨が嫌いではない....

 雨が降るとあの日の記憶が今でも鮮明に蘇るからだ....

 そう、あの日も丁度こんな感じで雨が降り出してきた

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の中で1つの季節が終わり、新たな季節が始まったあの日..............

 

 


Memory of Rain


 

 あの日、僕は芦ノ湖に来ていた.....

 いや、正確に言うと「僕」ではない「僕たち」である

 アスカを連れ立って芦ノ湖に来ていた........

 別に観光とかそういう目的で来ていた訳ではない

 説明すると難しくなるのだけれどもなんと言うのだろうか?

 そう、言うなれば「過去と決別するため」という所であろうか.......

 僕は1人の少女との別れを告げるために、芦ノ湖に来ていたのだ

 彼女の名前は「霧島マナ」。

 ある空がとてもよく晴れた日に僕の前に現れ、そして爆風の彼方に消えていった少女

 僕に初めて人を好きなるという事を教えてくれた少女

 目を閉じるといまだに彼女のまぶしい笑顔がまぶたの裏に焼きついている

 でも、彼女はもういない.......

 彼女がどうなったかという事は正式には公にはされていない

 でも、僕は未だに覚えている

 最後の時、彼女は僕でない人を選び、そして消えていったのだ

 あの直後、僕は少しおかしくなっていた

 根拠もないのに「マナは生きている」と主張してアチコチを詮索して回った

 今にして思えばえらくバカなことをしたと思っている

 そして、その夜、トウジたちと大喧嘩をしてしまった

 理由はよく分からなかった........

 でも、トウジがアスカのことに触れて「いい加減だ」と揶揄したからだと思う

 どうしてかわからないけどその瞬間、僕はとても頭に来た

 アスカの事を悪く言われたことに対してこんなに腹立たしいと思ったのは初めてだった

 結局、あっさりトウジに返り討ちに会ってしまってトウジたちは帰っていってしまった

 帰り際にケンスケが僕に投げかけた「シンジが惣流とくっついたら軽蔑するけど

 それは止められることはできないな」という言葉が脳裏をよぎる

 

 僕と.......アスカが..........?

 

 ふと、傍らにいる少女に目をやる

 さっきからなにも言わず僕のとなりに寄り添っている.......

 思えば、アスカと出会って以来、僕は彼女を「女性」として意識したことがあったであろうか?

 おそらく殆どそのような状況はなかったと思う.......

 だからこそ僕はマナが現れたときのアスカが見せた反応に驚いた......

 明らかにアスカはマナに嫉妬している........?

 アスカの行動にはそのようなニュアンスが多分に含まれていた気がする

 僕はその時心の奥底で妙な期待感が生まれたことに気づいた

 アスカが僕とマナとの関係に嫉妬している.....それって........

 それからだろう僕が少しづつではあったけどアスカを「女」として意識しだしたのは

 

 

 

 

 僕はマナと僕が写っている写真をとりだすとライターで火をつけた

 写真はあっという間に燃えて灰だけになってしまった.......

 思い起こせば、マナとの写真の始末の仕方についてこうするように提案したのはアスカだった.....

 そのとき、アスカはどういう真意があって僕にそういったのかは定かではない

 アスカが僕についてどう思っているのかも知らない

 ある意味、彼女の心をもて遊んでしまった僕にはそんな事を問う資格は与えられていない

 その「儀式」を行っている間、僕たちは終始無言のままだった.....

 

 

 

 そして帰り際.......

 僕たちはバス停で帰りのバスを待っていた

 僕はアスカをちらりと見やる

 アスカは表情を崩さず視線を前に向けたままだ

 アスカは何故、芦ノ湖まで付いてきたのだろう?

 彼女のこと考えれば考えるほど僕はアスカのことが知りたくなっていた、そう、それこそマナが思考の方へ

 フェードアウトしてしまうほどに............

 やがて、薄暗い雲が集まりだして、雨が空から落ち始めた...

 その時である、アスカが僕の胸に顔を埋めたのは......

 「アスカ........?」

 「お願い..........このままで.......しばらくいさせて.........」

 アスカがうつむいたまま返事をする

 僕はオズオズとアスカの肩を抱いた

 そして初めて気がついた、彼女の肩がこんなにも細かった事を、彼女の身体がこんなにも華奢だったことを.....

 僕はアスカを抱きしめている腕の力を強めた

 こうしていないと彼女がどこかへ逃げてしまいそうだったから.......

 「アスカ、寒くない.......?」

 「ちょっと、寒い.......」

 相変わらず視線を下に落としたまま答えるアスカ、すこし身体が震えているようだ

 バスもしばらく来ないみたいだし、このままだとアスカが風邪を引いてしまうかもしれない

 こまった僕は辺りをみまわした、すると視線の先に雨宿りできそうな小屋があるのに気がついた

 「アスカ、ひとまずあの小屋までいこう」

 「ウン.........」

 

 

 

 

 小屋の中は僕が想像していたよりも荒れ果てておらず、屋根もしっかりしていた

 僕たちはそこで雨が止むまで雨宿りをすることにした

 「服、だいぶ濡れちゃったね.........今、火を起こすよ」

 「うん..........」

 さっきから、妙にアスカがしおらしい

 僕の心臓とても早いペースで鼓動を刻んでいた

 (なんか、今日のアスカ........かわいいな..........)

 囲炉裏に火をともす、すると床に一枚、毛布があることに気づいた

 「服.......濡れてるから、脱いでこれにくるまりなよ.......」

 「シンジ〜、なんかいやらしい事考えていない?まあ、たしかにここだったら

 アンタに襲われてもアタシの悲鳴は聞こえないかもしれないけどね........」

 アスカがいつもの悪戯っぽい表情に戻って僕のことを冷やかす

 「そんなんじゃないよ.......その......風邪引いちゃうし........」

 「........こっち向かないでね........」

 僕はそういわれて慌てて後ろを向いた、振り向きたいという欲望と戦いながら.......

 「シンジはどうするの.......?」

 「僕は大丈夫だよ.......ヘッ、ヘックシュン!!」

 口ではそう言っておきながら実は結構さっきから微妙に熱っぽい.......

 「全然大丈夫じゃないじゃない!!アンタもはいりなさいよ!!」

 そう言って僕も毛布に包まる事を誘うアスカ.....

 「え、だって.........」

 僕は躊躇した、今現在ギリギリ欲望を押さえつけているのにアスカと一緒の毛布に入るなんて.........

 「しょうがないじゃない........」

 「う、うん.......」

 僕も決心して服を脱いでアスカと一緒の毛布に包まる

 アスカの柔らかい身体の感触が直に肌を通して伝わってくる

 「雨.......止まないね.........」

 「そうね........ってアンタ!!あんまり毛布かぶっていないじゃない!!もうちょっと寄りなさいよ」

 そう言いながら僕の方に身体を摺り寄せてくるアスカ

 「ア、アスカ......そんなによったら........」

 ただでさえ、身体の感触でドキドキしっぱなしなのに、こうなるとヘビの生殺し状態である

 「アタシは別にかまわないわよ.......アンタの身体温かいし、それに.......

 こうしてみるとアンタって肩幅結構広いのね......やっぱり男の子なんだ........」

 アスカが僕の背中に顔を持たれかけてくる

 「ねえ、シンジ.........」

 「ん?」

 「霧島さんの事はいまでも........好きなの........?」

 アスカが唐突に質問をしてきてた

 「わからない。”好きだった”事は間違いないけど、いま、もう一回彼女に出会ってもあの時抱いていた

 感情と同じ物を抱くかと言われたら、多分それはわからないよ.........」

 「そう.......」

 うなずいて溜息をつくアスカ、心なしかどこか嬉しそうに見えるのは僕の気のせいだろうか?

 「じゃあ、もう1つ質問していい.......?」

 「何.....?」

 アスカはここでひと呼吸を置いて息を整えた、

 「シンジにとって.......アタシって..........なに.....?」

 アスカの紺碧の瞳が僕を射抜く、不安と期待が入り混じった目をしていた

 僕はその視線に耐えられずつい横を向いた

 「それも.......よくわからないよ..........でも.......僕にとって大切な存在である事は確かかな.....」

 アスカの方に視点を戻す、今度はアスカがうつむいていた

 前髪に隠れて彼女の表情はよくわからない

 2人の間を微妙な沈黙が支配する、あたりに聞こえてくるのは降り続いている雨音だけ

 しかし、その沈黙を打破したのはアスカだった......

 「ねえ、シンジ........キスしようか?」

 前にも聞いた台詞を再びアスカは口にした

 でも.........僕にはその台詞は苦い思い出しか蘇らせてくれない

 「.........いやだ..............」

 「え.......?」

 その瞬間、アスカはとても不安な表情になる、まるで怯えた小動物のような........

 「僕は........勢いだけで......キスとかは......したくないし..........

 それに、ここでキスをしたら、僕はいい加減な男になってしまう..........」

 そう......ここでもしキスをすれば、僕どころかアスカまで軽蔑されてしまう..........

 「いい加減でいいじゃない..........それとも、アタシじゃ、惣流・アスカ・ラングレーじゃ、だめ?」

 僕はそれを聞いた時、頭をハンマーで殴られたような衝撃をおぼえた

 (そうだったんだ..........ずっと、怖かったんだ...........アスカと.........

 その........「そういう関係」になるのが.............)

 僕は彼女を「女性」として意識しなかったのは、多分、それを意識したら

 今の生活が壊れてしまうかもという恐れがあったんだと思う

 矛盾した言い方になってしまうかもしれないけど「無意識のうちにわざと彼女を女性として意識しなかった」のだろう

 でも、僕は気がついていた..................

 僕の視界のどこかしらに必ずアスカがいた事を..............

 だけど、僕から逃げ出した............

 僕は彼女に惹かれていたからこそ逃げ出した............

 そして........逃げ出した先にいたのはマナという少女.............

 僕はアスカという「女性」を忘れるために彼女を求めた........

 もちろん、マナに惹かれていた事も半分は事実だ.........

 だけど、マナがいなくなって改めてアスカという存在を思い知る事となった......

 「前にもいったけど.......アタシが霧島さんの代わりになってあげる。

 だから、せめてアタシを霧島さんだと思って、キスをして..............」

 アスカは消え入るような涙混じりの声でささやいて瞳を閉じる

 「ちがうよ!!」

 「えっ?」

 僕がつい大きな声で怒鳴ってしまったのでアスカは慌てて目を開ける

 「アスカ、君は君だよ..............」

 僕はそういうと強い力で彼女を抱き寄せ、そして.............

 「ん............」

 強引に彼女の唇を奪った

 突然のことでアスカは最初驚いて身体を強張らせたが、瞳を閉じて徐々に僕に身体を預けていった..........

 (なんで、最初からこうすることができなかったんだろう........僕が一番望んでいたことなのに........)

 

 

 

 

 

 そして僕たちは堕ちていった...............

 

 

 

 僕はいい加減な男として軽蔑されるかもしれない、でも僕は1人ではない.......

 アスカと一緒に堕ちていくことができるのなら、それはなんとすばらしい堕落なのだろう.........

 恐らく、僕は世界中の全てを敵に回したとしてもこの堕落を選択するに違いない......

 

 でも、1つだけ心残りがある..........

 それはマナのこと..........

 結果的にとはいえ僕は彼女のことを利用してしまった........

 

 

 僕がマナに対して犯した罪は時が流してくれるのだろうか.........

 今の僕にはそんな事を考える事も許されてはいなけど

 君の「今後の人生」にできる限りの幸せが訪れるように祈りつづけるよ..........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしたのシンジ?ベランダからずっと空を見上げていてさ」

 背後から僕の事を呼ぶ声

 僕は何千、何万という人間の中にいてもその声を聞き分ける事ができるような気がする

 「アスカ........いや、まあ、ちょっと考え事をしててさ.........」

 「アンタが考え事?バカシンジが何を考えてんだか.......あっ!わかった、いやらしい事でしょ?」

 アスカがいつもの調子で僕の事をからかってくる、でも僕は昔のようにふてくされたりはしない

 彼女がそう言った時に顔に浮かべる笑顔を見るのは今の僕の楽しみの1つだから

  

 あの後、僕たちは「そういう関係」になった........

 最初はトウジたちからだいぶからかわれたっけ..........

 でも、軽蔑されたりはしなかった......

 みんなは僕がなんか吹っ切れた感じになって前よりも良くなったって言っていた

 それは多分、本当に大切なものを手に入れたからではないだろうか?

 僕の大切なもの............

 それは僕のとなりで笑顔を振り撒いている少女.........

 

 「アスカ........」

 「ん?」

 「愛してるよ.............」

 僕はそう言ってアスカの頬に奇襲攻撃を仕掛ける

 「チュッ」

 どうやら、奇襲攻撃は見事に成功を果たした

 「やったわねーーーーーー!!」

 アスカの声は怒鳴っているが頬を抑えて真っ赤になっているのであまり迫力がない

 「たまにはこういうのもいいだろ?」

 「バカシンジのクセに生意気よ!!待ちなさーい!!」

 アスカが真っ赤になって追いかけてくる

 それを軽くあしらう僕、ベランダを見やると空は完全に晴れて虹が出ていた

 雨がつれて来た1つの物語.............

 それは甘く切ない恋の終焉の物語............

 そして僕たち2人の始まりの物語...............

 僕はこの物語を胸にこれからも歩いていくのだろう

 そしてその傍らには彼女がいる............

 

 アスカ........これからも、よろしくね!!

 

 

 Fin


 ういっす、G−MAXですよ。

 いや〜、新年あそび過ぎたおかげで、作品のアップが大幅に遅れてしまいましたよ。

 よそ様のサイトなんかは元旦から始動しているところもあるというのに........

 しかも未だにクリスマス小説の後編をアップしていないという始末.........

 まあ、とりあえず頑張ったので勘弁してやってください。

 気を取り直して今回の作品はいかがでしょうか?

 今回の作品は私と「海賊島」の蘭麻氏とのチャット中の会話をもとに作ってみたんですよ。

 自分としてはこういう形式で作品を作ったのは初めてだったので、とても勉強になりました。

 しかし、話の辻褄合わせでやっていたら大分チャット中の台詞が反映されていないような.......

 ごめんなさい、蘭麻さん〜、なんか元の奴と大分違ってしまうような気がします。

 これも自分の実力不足ですね、スイマセン........

 なんか、新年からあやまってばかりですな................

 まあ、後書きはこれくらいにして、2002年も頑張っていたきたいので応援宜しくお願いいたします!!


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